遂に大晦日!今夜は紅白もあるしMBC歌謡もあるし眠れない夜になりそうw
今年も本当に色んなことがあったけど、こうして日々韓国ドラマや韓国映画を楽しめる環境にいられたことに、心から感謝!!
2023年最終日の今日は、いつもより真面目に(?)映画の感想を書いてしっかりと1年を締めくくっていきたいと思います!
年が明けたらソ・イングク&パク・ソダム共演の「もうすぐ死にます」を見るぞ~w
作品情報
- 邦題:別れる決心
- 原題:헤어질 결심
- 英題:Decision to Leave
- 公開:2022年
- 上映時間:138分
- 日本国内配信:Amazon prime video・Leminoプレミアム(2024.7現在)
本作品の配信情報は2024年7月1日時点のものです。配信が終了している、または見放題が終了している可能性がございますので、現在の配信状況についてはLeminoのホームページもしくはアプリをご確認ください。
予告編
あらすじ
評価(momoruruが勝手に採点♪)
総合評価 90点
容疑者と刑事が織りなす妖艶なミステリーロマンス。
カンヌ国際映画祭監督賞受賞作は一見の価値あり!
計算され尽くした映像や言葉を介さない愛の表現に心が揺さぶられること間違いなし。見終わった後の余韻まで美しい作品。
感想
パク・チャヌク監督の話題作
「オールド・ボーイ」「お嬢さん」で知られる韓国映画界の巨匠パク・チャヌク監督の最新作で、カンヌ国際映画祭の監督賞受賞作であり、ゴールデングローブ賞ノミネート作品、アカデミー賞韓国代表作品でもある、話題のこの映画。
しかし暴力も性描写もないパク・チャヌク監督作品。想像とかけ離れていたせいなのか1回目を見た時にはうまく消化できなくて、少し時間をあけて2回目を見てから今ようやく感想を書いている。
結果的に2回目を見て正解だったと思う。私には一回で全てを把握するのは難しかった。
机の上に並べられた本、絆創膏に香水をかける仕草、しついほどのウインカーの音、これは何の暗喩?何のオマージュ?ってついつい考えてしまうような繊細な演出が散りばめられていて、見ればみるほどに発見がある映画だった。
ミステリーを見ていたはずなのに
私生活はおろか自らの安全も犠牲にしかねないような執拗な捜査で、最年少で昇進した優秀な刑事ヘジュン。
ある日、担当することになった転落死体。
自殺か他殺か…若すぎる外国人の妻ソレの存在…不穏な態度のソレには殺人歴が…そんなミステリースリラーとして始まるストーリー。
ヘジュンにとってはいつも通りの捜査だったはずなのに、ありきたりな張り込みだったはずなのに、双眼鏡から覗き込むヘジュンの視線はソレから離れられない。酷い不眠症に悩まされていたはずなのに、彼女を監視しながら車内で熟睡してしまうヘジュン。
ミステリーを見ているはずなのに、この映画は最初からなにかが明らかに違う。ヘジュンの瞳に映っているのは容疑者ソレではない。そして自分を見つめるヘジュンの気配を感じるソレの表情も容疑者のものではない。
正当な手順で取り調べをしているだけなのに、いつもより高い寿司を黙々と食べ、2人でテーブルの上をサッと片付けて、ふきんを手渡して拭き上げて紙袋に捨て、妙に息の合った動きをする。
そんな行動だけで、2人の間に漂うただならない雰囲気を演出していく…、この映画の独特な手法に私は一気に引き込まれてしまった。
この続きはネタバレありますのでご注意を~
2人の間にある会話は、容疑者と刑事の間にあるものでしかなく、個人的な話など何もしていないのに、ヘジュンはソレを急に家に呼んで料理を作る。
言葉で説明することに意味がないかのように、惹かれ合うことが当然であったかのように、結婚など何の制約でもないように、平然とヘジュンの家に出入りするソレ。ソレはヘジュンを寝かしつけ、静かな観光地でデートをし、リップを塗り合う。ソレはヘジュンが惹かれた理由について聞こうとはしない。それよりも、自分の監視をするヘジュンの呟きに熱心に耳を傾ける…。
刑事が捜査を通して容疑者を愛してしまうという、そこまではよくある話なのに、これは何かが全く違う。これはミステリーじゃない、紛れもなく運命的なロマンスなんだ…と私が気が付くころに2人は既に深く愛し合っていた。
主観や時間をも跳躍していく映像
この映画で私が魅せられたのは、映像の捉え方の強烈さ。
映像の主観が、予想も出来ない場所に置かれていたりするからだ。
ある時は目を見開いて死んだ人間の視点から空を映し、スマホの中からヘジュンを映し、モニターを挟み、時には死んだ魚の目線にすら入り込んでいく。
同様にヘジュンの主観が空間を移動してしまう演出も面白い。ヘジュンが遠くから覗き込んでいたソレの部屋にヘジュンの体が移動して臭いまで嗅いでいることもあれば、ヘジュンが見ていたレントゲンに映った故人の手が自分のものとして動き出したり、ヘジュンのすぐ脇でソレの回想シーンが展開されていくことまであり、主観だけではなく時間さえも跳躍してしまう映像は、映画の中で舞台を見ているようで斬新だった。
パク・チャヌク監督がヒッチコック監督に傾倒して映画監督になったという話には納得してしまう、視聴者の視線を無意識に掴んでいく凝った映像だった。(ソレの登場シーンで顔をなかなか映さなかったのも「めまい」を彷彿とさせる演出だった)
言葉の壁
そしてこの映画を特徴付けていたもう一つの要素は「言葉の壁」だと思う。
ソレは韓国語を上手く話せない。初対面の相手に自己紹介する時に「中国人なので韓国語は苦手」と説明するほどで、たどたどしい韓国語に、独特のアクセントを付け、違和感のある言葉を選ぶ(この描写は韓国語ネイティブじゃないと分からないのが残念だったけど)。そして肝心なことを話す時は中国語で話し、翻訳アプリを使って伝える。
ヘジュンの言った「우리(ウリ・私たち)」という言葉に敏感に反応してみたり、見ているとソレは韓国語を理解し、十分に表現もできるようにも見えるのに、心の奥底を表現するときに敢えて中国語で話そうとするのは、そこにソレの意図があったようにも思えてくる。
それ以上に、この言葉の壁は「言葉を介さないロマンス」について強く印象付ける要素でもあったと思う。つまり、この映画において言葉そのものはあまり重要ではなかった。ソレが中国語で言った「心」をヘジュンが「心臓」と誤解したままで通じ合えたように、単語よりもそこに含まれた意味の方が重要だったのではないか。
そして、言葉そのものが重要ではないということは、終盤で語られた「愛してる」というセリフの伏線にもなっている。ヘジュンはソレに「愛してる」という言葉を伝えたことはなかったが、「愛してる」ことを確かに伝えていた。ソレは彼の愛の告白を音声ファイルに保存した。
しかしそんなヘジュンの愛情は、ソレに利用されて完全に崩壊してしまった。
ろくに眠らず息が切れるまで走り続けて守り抜いた警察としての崇高な誇りを、ソレに汚されたのだとヘジュンは感じた。そしてこの愛の告白を最後に、ソレの元を去ってしまう。
そしてそこからソレのヘジュンへの愛は始まっていく…
そして永遠の未解決事件に…
映画の中で、私が一番印象的だったセリフは、イポの取調室でのシーンでソレの言った言葉。
「2人の夫が、1人の刑事の管轄区域で、しかも遠く離れた場所で自殺と他殺を。そんな話を聞いたら僕はこう思う。すごい偶然だなと。ソレさんなら何て?」とヘジュンに問い詰められた時に、ソレが言った「すごく可哀想な女ね」という言葉が鮮烈に残った。
女刑事には鼻で笑われ、ヘジュンには呆れられたようだけれど。
しかしソレは、こうすることでしか愛する男に会えなかった、こうすることでしか愛する男を守れなかった、その背景を知ってから改めて見返してみると、ヘジュンから尋問を受けるソレが誰よりも切なく哀れに映った。
そして、エンディングで私は衝撃を受けた。
ソレが自らの命を絶ってしまうのだ。
たしかにソレは殺人を犯した。自分の母を入れればこれで3人目の殺人だ。そして間接的に夫をも殺した。だがソレが関与した証拠は恐らくもう残っていない。きっとヘジュンは再びソレをかばってくれるだろう。
さらに言えばヘジュンの妻は、ざくろ酒とスッポンを持ってヘジュンの元を去った(この描写も凄い)。ヘジュンがこの先、ソレを選ぶ可能性は十分にある。
それなのに、ソレが自ら死を選ぶ理由は何なのか? 私は最初は分からなかった。
再び映画を見返してみて私が思うのは、ソレは恐らく、2人にはもうこの先が無いことをよく分かっていた。たくさんの罪にまみれてしまったソレを選ぶことで、彼が再び完全に崩壊するからだ。
2人の関係は最初から最後まで、容疑者と刑事の関係だった。そしてソレはヘジュンに刑事としての誇りを取り戻してもらうことを望んでいた。だから過去にソレが犯した罪の証拠が残るスマホも捨てずに持っていて、ヘジュンに事件の再捜査を依頼した。
ソレが望んだこと、それは、自分が永遠の未解決事件として彼の部屋の壁に貼られ、自分を想ってヘジュンが眠れない夜を過ごすこと。それこそが、崩壊の恐れのない完全な愛を得る唯一の方法だと思ったからだ。
そのためには自分の生死が明らかになってはいけない。
遺体が見つかってはいけない。
跡形もなく消えなくてはならない。
だから砂浜の底に埋まることを選んだのではないか…
パク・チャヌク監督もインタビューで、ソレがヘジュンのために自分を犠牲にしたと考えて欲しくないと語っていた。
それはあくまでソレの選択であって、私はそれがソレの愛の形なんだと思うことにした。故郷からの過酷な船旅の末にたどり着いた異国の地で、他に身寄りもないまま、年の離れた夫から暴力を受け続け、夫を殺した妻ソレ。そして初めて愛する男と出会ったが、やがてその男のために再び犯罪に手を染め、彼への愛のために彼女が主体的に選択したこと。それが「死」だったのだ。
「すごく可哀想な女ね」
ソレを飲み込んでいった波間に、あの時のソレの言葉が聞こえてくるようなエンディングだった。
相棒コ・ギョンピョも良かったし、イ・ハクジュもパク・ジョンミン、ユ・テオも出てくる!!